公開日: |最終更新日時:
「顎の骨が足りないからインプラントは難しい」と歯科医院で言われた経験はないでしょうか。そのような方にとって、新たな選択肢となりうるのがザイゴマインプラントです。
ザイゴマインプラントは、顎の骨ではなく頬骨にインプラント体を埋入する治療法で、骨造成が不要なうえ、手術当日に仮歯を装着できる可能性があります。一方で、手術の難易度が高く対応できる医院が限られるなど、事前に理解しておくべき点も少なくありません。
この記事では、ザイゴマインプラントの仕組みや適応対象、メリット・デメリット、費用相場、治療の流れ、医院選びのポイントまでを一般論としてわかりやすく解説します。ザイゴマインプラントについて検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
ザイゴマインプラントは、英語で頬骨を意味する「zygomatic bone(ザイゴマティックボーン)」に由来する名称です。通常のインプラントが顎の骨(歯槽骨)に人工歯根を埋め込むのに対し、ザイゴマインプラントでは頬骨にインプラント体を固定します。
ここでは、まずザイゴマインプラントの基本的な仕組みと、頬骨で十分な固定力が得られる理由を見ていきましょう。
通常のインプラント治療では、歯を失った部分の歯槽骨に長さ10mmから16mm程度のインプラント体を埋め込みます。このとき、インプラント体を安定させるために一定量の骨の厚みが必要です。歯周病や長期間の入れ歯使用などで顎の骨が大きく吸収されていると、そのままではインプラント体を固定できず、サイナスリフトなどの骨造成手術が必要になります。
一方、ザイゴマインプラントで使用するインプラント体は50mm以上と通常の3倍以上の長さがあります。この長いインプラント体を頬骨に向けて斜めに埋入し、しっかりと固定する仕組みです。頬骨は顎の骨よりも硬く、加齢や歯周病による骨吸収の影響を受けにくいため、顎の骨が極端に少ない方でも安定した土台を確保できます。
基本的には片顎あたり4本(場合によっては6本)のインプラント体で、12本から14本の人工歯からなる特殊なブリッジを支えるのが一般的な治療設計です。
インプラント治療の安定性を支えているのは、インプラント体と骨が分子レベルで直接結合する「オッセオインテグレーション」という現象です。この結合によって、天然歯に近い咀嚼力が得られます。
ザイゴマインプラントでも同様に、頬骨とインプラント体の間でオッセオインテグレーションが起こります。頬骨は顎骨と比べて骨密度が高く、硬い骨質を持っています。そのため、通常のインプラントと同等、あるいはそれ以上の初期固定力が期待でき、手術当日に仮歯を装着する「即時荷重」にも対応しやすいとされています。
参照元:日本口腔インプラント学会(https://www.shika-implant.org/)
ザイゴマインプラントは、すべてのインプラント希望者に適用されるわけではありません。主に以下のような状況にある方が対象となります。ご自身に当てはまるかどうかの参考にしてみてください。
歯周病が進行していたり、歯を失ったまま長期間放置していたりすると、上顎の骨が大きく吸収されてしまうことがあります。通常のインプラントはもちろん、オールオン4でも対応が難しいほど骨が少ないケースでは、ザイゴマインプラントが有力な選択肢になります。
他院で「骨が足りないのでインプラントはできない」と言われた方であっても、頬骨を利用するザイゴマインプラントなら治療の可能性が残されている場合があります。
顎の骨が不足している場合、一般的にはサイナスリフトなどの骨造成手術で骨を増やしてからインプラントを埋入します。ただし、骨造成手術を行うと手術が複数回にわたることが多く、骨が定着するまでに半年以上かかるケースも珍しくありません。
その間は取り外し式の入れ歯を使わなければならず、身体的にも精神的にも大きな負担がかかります。ザイゴマインプラントであれば骨造成を行わずに治療を進められるため、こうした負担を避けたい方に適しています。
総入れ歯を長く使用しているものの、外れやすい、痛みがある、食事や会話がしづらいといった不具合を抱えている方にも、ザイゴマインプラントは選択肢になります。固定式の人工歯になるため、入れ歯特有のずれや不快感から解放されることが期待できます。
参照元:厚生労働省 e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
ザイゴマインプラントとオールオン4は、どちらも少数のインプラント体で多数の人工歯を支えるという点で共通しています。そのため、違いがわかりにくいと感じる方も多いでしょう。ここでは、両者の違いを整理します。
オールオン4は、顎の骨の中でも比較的骨量が残りやすい部分を選んで4本のインプラント体を埋入する治療法です。多くのケースで骨造成なしにインプラント治療が可能になりましたが、上顎の前歯部を含めて広範囲に骨が吸収されている場合には適用が難しくなることがあります。
ザイゴマインプラントは、オールオン4でも対応できないほど骨が少ないケースを想定した治療法です。埋入先が顎の骨ではなく頬骨であるため、顎の骨がほとんど残っていない状態でも治療を進められます。
| 比較項目 | 通常のインプラント | オールオン4 | ザイゴマインプラント |
|---|---|---|---|
| 埋入先 | 歯槽骨 | 歯槽骨 | 頬骨 |
| 治療期間の目安 | 6か月〜2年 | 3か月〜6か月 | 3か月〜6か月 |
| 手術回数 | 1回〜複数回 | 原則1回 | 原則1回 |
| 骨造成の要否 | 骨量不足なら必要 | 多くの場合不要 | 不要 |
| 費用相場の目安 | 200万〜250万円程度 | 210万〜400万円程度 | 240万〜300万円程度 |
上記はあくまで一般的な目安であり、患者さんの口腔内の状態や使用する素材、医院の方針によって変動します。特にザイゴマインプラントは対応する医院が限られるため、費用体系も医院ごとに大きく異なる点に留意が必要です。
参照元:日本歯科医学会(https://www.jads.jp/)
ザイゴマインプラントには、顎の骨が少ない方にとって大きな利点がいくつかあります。主なメリットを確認していきましょう。
ザイゴマインプラントでは、頬骨に直接インプラント体を固定するため、骨造成手術を行う必要がありません。骨造成には手術の追加や骨の定着を待つ期間が必要で、その間は感染症のリスクや、入れ歯による粘膜への刺激といった問題も生じやすくなります。
こうした負担がなくなることは、とくに高齢の方や全身疾患を抱えている方にとって大きなメリットといえるでしょう。
ザイゴマインプラントは、頬骨が硬く初期固定力を得やすいため、オールオン4と同様に「即時荷重」に対応できるケースが多いとされています。即時荷重とは、インプラント体を埋入したその日のうちに仮歯を装着する方法です。
仮歯が入ることで、見た目の回復はもちろん、発音や軽い食事も手術翌日から可能になります。歯がない期間を過ごさずに済むのは、日常生活の質を保つうえで大きな利点です。
ただし、骨の状態や全身の健康状態によっては即時荷重が適用されない場合もありますので、事前のカウンセリングで確認することが大切です。
骨造成を行うケースでは、骨を増やす手術とインプラントの埋入手術を分けて実施するため、最初の手術から最終的な人工歯の装着まで1年以上かかることもあります。
ザイゴマインプラントは骨造成が不要なため、基本的に手術は1回で完了します。仮歯の調整期間を経て、最終的な人工歯への交換までを含めても、おおむね3か月から6か月程度が治療期間の目安です。通院回数も少なくて済むため、時間的な負担も軽減されます。
参照元:日本補綴歯科学会(https://www.hotetsu.com/)
メリットの多いザイゴマインプラントですが、治療を検討するうえで理解しておくべきデメリットやリスクもあります。判断材料としてしっかり確認しておきましょう。
ザイゴマインプラントでは、インプラント体が上顎洞(副鼻腔の一部)の近くを通過するため、上顎洞の粘膜(シュナイダー膜)を傷つけてしまうリスクがあります。粘膜が損傷すると、口腔内と上顎洞が一部つながり、上顎洞炎を引き起こす可能性が報告されています。上顎洞炎になると、頬の圧迫感、鼻づまり、頭痛、発熱といった症状が現れることがあります。
また、頬骨に埋入したインプラント体の先端付近に瘻孔(ろうこう)と呼ばれる異常な通路ができてしまうケースもまれに報告されています。瘻孔が形成されると腫れや炎症が続くことがあり、抗生剤の投与や外科的な処置が必要になる場合があります。
いずれのリスクも、CTによる精密な術前シミュレーションと術中の慎重な操作によって軽減できるとされていますが、ゼロにはできないため、事前にしっかり説明を受けておくことが重要です。
ザイゴマインプラントは、50mm以上の長いインプラント体を頬骨に向けて斜めに埋入する手術です。埋入角度がわずか1度ずれるだけでも最終的な位置に大きな誤差が生じるため、高度な技術と豊富な経験が求められます。
さらに、顎口腔領域だけでなく顔面領域の解剖学的な知識も必要になるため、通常のインプラント治療を行っている医院であっても、ザイゴマインプラントまで対応しているところは限られています。全国的に見ても、対応可能な医院はごく少数にとどまるのが現状です。
ザイゴマインプラントは自由診療で行われ、健康保険は適用されません。通常のインプラントよりも長く特殊なインプラント体を使用すること、手術の難易度が高いことなどから、費用は通常のインプラント治療よりも高額になる傾向にあります。
費用の目安については次の見出しで詳しく解説しますが、経済的に大きな負担となる可能性があるため、事前に費用の内訳や支払い方法を確認しておくことをおすすめします。
ザイゴマインプラントは、基本的に上顎の歯がすべてない状態(または歯が残っていても大きく損傷している状態)に適用される治療法です。もし上顎に歯が残っている場合、その歯を抜歯したうえで治療を行う必要があります。
残っている歯に対する思い入れがある方にとっては心理的な負担になることもあるため、他の治療法と比較したうえで慎重に判断することが大切です。歯を残したいという希望がある場合は、担当医に相談して別の治療法を検討しましょう。
参照元:日本口腔外科学会(https://www.jsoms.or.jp/)
ザイゴマインプラントの費用は、骨の状態や埋入するインプラント体の本数、上部構造(人工歯部分)の素材などによって大きく異なります。ここでは一般的な費用の目安と、経済的な負担を軽減する方法を紹介します。
ザイゴマインプラントの費用は、片顎(上顎)あたり240万円から300万円程度が一つの目安です。ただし、これはあくまで目安であり、使用する素材(レジンかジルコニアか)、インプラント体の本数、CT撮影や静脈内鎮静法の費用が含まれるかどうかなどによって金額は前後します。
通常のインプラント治療でも骨造成を行えば同程度の費用がかかるケースもあるため、単純な金額だけでなく、治療全体の回数・期間・身体的負担を含めて比較検討することが大切です。
ザイゴマインプラントは健康保険の適用外ですが、医療費控除の対象にはなります。1年間に支払った医療費の合計が一定額を超える場合、確定申告を行うことで所得税の一部が還付される仕組みです。通院にかかった交通費も控除の対象になりますので、領収書を保管しておくとよいでしょう。
また、多くの歯科医院ではデンタルローン(歯科治療に特化した分割払い)を取り扱っています。一度に大きな金額を支払うのが難しい場合でも、月々の分割で無理なく治療を受けられる可能性があります。金利や手数料は各ローン会社・医院によって異なるため、事前に条件を確認しておきましょう。
参照元:国税庁 医療費控除について(https://www.nta.go.jp/)
ザイゴマインプラントは手術当日に仮歯まで装着できるケースが多い一方、カウンセリングから最終的な人工歯の完成までにはいくつかのステップがあります。全体像を把握しておくことで、安心して治療に臨みやすくなります。
まず初診時にカウンセリングを行い、これまでの治療歴や現在の悩み、治療に対する希望などを確認します。その後、CT撮影やレントゲン撮影、口腔内の写真撮影、噛み合わせのチェックといった精密検査を実施します。
CT画像をもとに3Dシミュレーションを行い、インプラント体の埋入位置や角度を精密に計画します。ザイゴマインプラントでは埋入角度のわずかなずれが大きな誤差につながるため、この術前計画が治療の成否を左右する重要なステップです。
検査結果と治療計画について担当医から詳しい説明を受け、費用・期間・リスクに納得したうえで治療に進みます。
手術は多くの場合、静脈内鎮静法を併用して行われます。静脈内鎮静法を使うと、意識はあるものの眠っているような状態になるため、手術中の痛みや恐怖心はほとんど感じません。
インプラント体を頬骨に埋入し、骨との初期固定を確認できたら、その日のうちに仮歯を装着します。手術時間は症例によりますが、おおむね2時間程度が目安です。手術後は痛みや腫れが出る可能性がありますが、処方される鎮痛薬で対処でき、多くの場合は数日から1週間程度で落ち着きます。
仮歯で一定期間過ごし、インプラント体と骨がしっかり結合(オッセオインテグレーション)したことを確認してから、最終的な人工歯(上部構造)に交換します。この期間はおおむね3か月から6か月程度です。
上部構造の素材はレジンやジルコニアなどがあり、審美性や耐久性に差があります。素材の選択によって費用も変わるため、担当医と相談しながら決めましょう。
最終的な人工歯が装着されたあとも、定期的なメンテナンスが欠かせません。次の見出しで、長く快適に使い続けるためのケアについて解説します。
参照元:日本歯科医師会(https://www.jda.or.jp/)
ザイゴマインプラントは、適切なケアを続ければ長期間にわたって使用できる治療法です。ただし、メンテナンスを怠るとインプラント周囲炎などのトラブルにつながるおそれがあるため、治療後の管理が非常に重要です。
インプラント周囲炎は、インプラントの周囲の歯茎や骨に炎症が起きる状態で、天然歯における歯周病に相当します。進行するとインプラント体を支える骨が失われ、最悪の場合はインプラントが脱落してしまいます。
予防のためには、毎日の丁寧な歯磨きが基本です。通常の歯ブラシに加え、歯間ブラシやワンタフトブラシを併用して、インプラントと歯茎の境目に汚れが残らないようにしましょう。洗口液の使用も補助的に効果が期待できます。
また、喫煙はインプラント周囲炎のリスクを高める要因として知られています。治療後の長期的な安定を考えると、禁煙や減煙を検討することが望ましいでしょう。
セルフケアだけでは取りきれない汚れや、インプラント体・上部構造の状態は、定期的に歯科医院でチェックしてもらう必要があります。目安として、3か月から6か月に一度の来院が推奨されるケースが多いです。
メンテナンスでは、インプラント周囲のプロービング(歯茎の溝の深さの測定)、レントゲンによる骨の状態の確認、噛み合わせのチェック、専門器具を使ったクリーニングなどが行われます。初期の異常を早期に発見し対処することで、インプラントを長く安定した状態に保つことができます。
参照元:日本歯周病学会(https://www.perio.jp/)
ザイゴマインプラントは高度な治療であるがゆえに、担当する医師の技量や医院の設備が治療結果に大きく影響します。信頼できる医院を選ぶために、確認しておきたいポイントを整理します。
ザイゴマインプラントは、通常のインプラント手術に加えてオールオン4の経験も豊富でなければ行えない、いわば応用的な治療です。医院を選ぶ際には、ザイゴマインプラントの症例実績がどの程度あるかを確認しましょう。
また、日本口腔インプラント学会の専門医や指導医、国際的なインプラント学会の認定資格、さらにはザイゴマインプラント関連のトレーニングプログラムを修了しているかどうかも判断材料になります。医院のウェブサイトやカウンセリングの場で確認してみてください。
ザイゴマインプラントの安全性を高めるには、歯科用CTによる精密な術前シミュレーション、3Dガイドの活用、専用のオペ室、静脈内鎮静法に対応できる麻酔管理体制など、設備面の充実が欠かせません。
また、歯科医師だけでなく、補綴の専門医や歯科衛生士、歯科技工士がチームとして連携しているかどうかも、質の高い治療を受けるためのポイントです。手術から最終的な人工歯の製作、メンテナンスまで一貫して対応できる体制が整っているかを確認しましょう。
初回のカウンセリングでは、不安や疑問を遠慮なく伝えることが大切です。以下のような質問をしておくと、治療への理解が深まり、安心して判断できるようになります。
たとえば、「ザイゴマインプラントの症例実績は何件ほどありますか」「上顎洞炎や瘻孔形成のリスクにはどのように対処していますか」「使用するインプラント体のメーカーと素材は何ですか」「手術後に問題が生じた場合の保証やフォロー体制はどうなっていますか」「費用の内訳と支払い方法の選択肢を教えてください」といった内容を確認しておくとよいでしょう。
説明があいまいだったり、リスクについて十分に触れなかったりする場合は、他の医院でもセカンドオピニオンを受けることを検討してみてください。
参照元:日本口腔インプラント学会(https://www.shika-implant.org/)
ザイゴマインプラントは、顎の骨が少なく通常のインプラント治療やオールオン4が難しい方にとって、有力な治療の選択肢です。頬骨にインプラント体を固定することで、骨造成なしに手術当日から仮歯を装着できる可能性がある点は大きなメリットといえます。
一方で、上顎洞炎や瘻孔形成といったリスク、対応できる医院が限られること、費用が高額になりやすいことなど、事前に理解しておくべき点もあります。メリットとデメリットの両面を把握し、信頼できる医師のもとで十分なカウンセリングを受けたうえで判断することが大切です。
この記事の情報が、ザイゴマインプラントを検討するための一助になれば幸いです。まずは対応可能な医院でカウンセリングを受け、ご自身の口腔内の状態に合った治療法を相談してみてください。
難しい症例でも
相談できる
国際口腔インプラント学会
(DGZI)認定医
TEL:042-850-7871
アレルギーの
少ない素材で治療
日本口腔インプラント学会
所属
TEL:042-812-2555
土・日診療で
通いやすい
日本口腔インプラント学会
専修医
TEL:042-735-4208